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「さまようコンビニⅡ」-7

     ★

 今俺にぶつかったのは山崎孝信だった。

我が社を半年前に首になった男だ。

いったい彼はこんなところで何をしていたのだろう。

いやな予感がした。

彼は俺の元部下だった。

俺の判断ミスで損害を出したとき、

山崎の同僚で当時はまだ係長だった立嶋課長が助け舟を出してくれた。

俺の失敗の責任を山崎係長に全て押し付ける計略を考え出した立嶋は、

引き換えに課長昇格の推薦を要求した。

俺は推薦するくらいお安い事だと言い計略を実行した。

結果として山崎は我が社を首になり、

俺の推薦を受けた立嶋は課長に昇格した。

 山崎が出てきた部屋には俺を呼び出した立嶋が居るはずだ。

ゆっくりとドアを開けると部屋の中に一歩踏み込んだ。

少し生臭い空気が漂っている。

そして、床に倒れている血まみれの男。

立嶋課長に間違いない。

俺は近くの電話の受話器をつかむと

手の震えを押さえながら何とか110番をプッシュした。

 声を震わせながら「殺人事件です。人が殺されています」

と言うと受話器の向こうの声は冷静な口調で

「場所はどこですか、住所は分かりますか」と尋ねた。

俺は冷静な人の声を聞いて少し落ち着きを取り戻して、

会社の住所と名前、自分の名前を告げた。

 相手の質問に答える形で部屋の中の状況などを説明しながら

待つ事十分程度だったと思う。

到着した警察官からその後も質問攻めに遭い、

くたくたになったところで警察署へと連行される事になった。

「さまようコンビニⅡ」-6

 何がおきたのか良く分からない様子の立嶋の首から血が噴き出す。

一旦ナイフを抜き、押し倒してからさらに首の反対側を突き刺す。

押し倒されてやっと自分の身に起こった事に気が付いた立嶋だったが、

すでに意識が朦朧とし始めている。

出血によるショックのせいだろうか、

倒れたまま起き上がろうとはしなかった。

 私は果物ナイフの血を立嶋の着ていた服でぬぐってその場に置いて立ち上がると、

自分のしたことの恐ろしさに身震いし始めた。

たぶん暫く放心状態だったのだろうかなりの時間がそのまま経過した。

 放心状態から立ち直り、

逃げなくてはと気付き部屋の出口へと向う。

部屋を出たところで元上司だった田之上部長にぶつかった。

私は何も言わずに急いで立ち去ろうとした。

田之上部長の「おい、お前ここで何している、お前、山崎だな」

と言う声を背中に聞きながら走り去る。

 建物の外に出ると、無くなったコンビニが再び姿を現していた。

コンビニの出入り口近くまでそのまま走り寄り、

店内の様子を伺おうとしていると、横から店員に呼び止められた。

「お前、金払わずに品物を持って出ただろう。

ポケットの中のパンと缶コーヒー、金を払わずに持ち出しただろう」

と言う店員の言葉に、

まだ金を払っていない商品をポケットに入れていたと気付き、

もうどうにでもなれと思った。

「とにかくこちらに来てください」

と強い口調で言われて裏口から店の事務室につれて行かれて、

身元引受人となる人もいないホームレスだと分かると、

警察に通報されて窃盗の現行犯として逮捕されてしまった。

「さまようコンビニⅡ」-5

 パーティションで仕切られた隣の部屋からの声に興味を引かれ、

静かにパーティションの側へと近付いた。

「部長、お願いしますよ」確かに聞き覚えのある声だ、

俺を罠にはめて自分達の失敗を俺のせいにしたやつらの一人。

元同僚の立嶋係長だ。

おかげで俺は今こんな事になってしまっている。

 復讐したいという思いがどんどん募ってくる。

立嶋は今どんな立場になっているのだろう。

やつの机を探すと、以前使っていた場所は別の人間が使っている様子。

机の並びの端にある課長席にヤツの物と思われる荷物が置かれている。

引き出しの中身や書類入れの書類を調べると、

どうやらヤツは課長に昇格している。

 俺に失敗を押し付けた男が、

俺は職を失ってホームレスだというのに、

課長に昇格している。

到底許せるものではない、復讐せずに立ち去るなんて考えられない。

 復讐の方法を考える。

考えるがとっくに冷静さを失っていたから、

私は部長席に行き、机の上のペン立てから、

ペーパーナイフ代わりに使っている果物ナイフを手に取った。

単純に立嶋を刺し殺す事しか考えていなかった。

 そっと部屋を出て、立嶋の居る部屋へと向う。

立嶋はずっと部長と電話している様子だ、

部屋に侵入した私に気付かずに電話での会話に夢中になっている。

そーっと後ろに近付いて、電話を切るのを待つ。

「それじゃあ待ってますから、早く来てください。お願いします」

手にしていた受話器を本体に戻し電話を切ったところで、

立嶋の首にナイフを突き立てた。

「さまようコンビニⅡ」-4

 今日は土曜日だった、

会社は基本的に休みだから建物の中に殆ど人はいないはずだ。

それでも苦情処理係や緊急対応窓口の人間は必ず一人は出社しているし、

それ以外にも休日出勤で働いている人間は少なからずいるはずだ。

わずかな人間が出社する為でも会社の出入り口は開いている。

ふと後ろを振り向くと自分がついさっきまで居たはずのコンビニは姿を消していた。

 私は、なぜこんな場所に自分が居るのかも良く分からずに、

会社の入り口へと近付いていった。

近付いて、そのまま中に入っても誰もとがめる人はいなさそうなのを確認して、

昔勤務していたフロアーへと入り込んでみた。

 パーティションで仕切られた一角は、

私が勤務していた頃と殆ど変わりない様子だった。

照明は消されていたが、

周りの部屋の明かりで薄暗いながらも見て回るのには十分な明るさがある。

そっと足音を忍ばせて入り込んだ部屋には、

昔使っていた机がそのままに近い様子で残っている。

 私の席に今は誰が座っているのだろう。

興味がわいてきて机の上や引き出しの中を覗き見する。

一番上の引き出しに名刺の束が入っていた。

机を使っている人物の名刺。

その名刺にはまったく知らない人物の名前が書かれていた。

何か少しがっかりした。

 元上司の使っていた机をも探ってみる。

上司は今も健在のようだ、

机の上には上司の個人的な所有物も並んでいる。

引き出しに手をかけたとき人の話し声が聞こえてきた。

聞き覚えのある声だった。

「さまようコンビニⅡ」-3

 ドアが開くと店内にピポピポと電子音が響き、

反射的に店員が「いらっしゃいませ」と声を出す。

店の奥にいた店員ははっきりと「いらっしゃいませ」を言ったのに、

レジ内にいて入り口を見ていた私をさげすんだ店員は、

開きかけた口を閉じて迷惑そうな顔のまま何も言わずに立っていた。

 私はそんな店員を無視して店内奥へと入り商品の物色を始めた。

雑誌類には手をつけない。

立ち読みをしても良いのだが雑誌そのものにあまり興味が無い。

奥のガラス扉の冷蔵ショーケースの前まで行き、

中の缶ジュースやペットボトルを眺めながらゆっくりと歩く。

時々振り返り、レジの店員の様子を伺う。

 パンや弁当の売り場まで来たとき、何となく違和感を感じた。

ついさっきまで店内にあった人の気配がなくなっている。

レジのほうに目を向けると店員の姿がなくなっていた。

気味が悪くなりながらも、買う予定だったアンパンと、

予定に無かった缶コーヒーを手にして店の出入り口に向った。

 出入り口のガラスのドアから見た外の景色に、

何となく懐かしさを感じた。

半年前まで毎日通った建物が目の前にある。

私を半年前に首にした会社だ。

 私は、缶コーヒーとアンパンを上着のポケットの中に押し込んで、

出入り口のまん前に進む。

自動ドアは私を一人前の人間と認識してくれて、

ピポピポと電子音を鳴らしながら左右に開いて行く。

外に出て一歩ずつ会社の建物へと近付いて行く。
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