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「幸運Ⅱ」-8

 社交辞令的な挨拶の後、飲み物とつまみをそれぞれ注文した。

飲み物が届くと一応乾杯して、

酔いがまわるまでは当たり障りの無い世間話をぽつぽつと話す。

 適度に酔いがまわって、

相手も気が大きくなっただろうというところで、

俺は今井を仕事に誘ってみた。

仕事に誘うといっても俺の所属する秘密組織に誘ったわけではない。

「今井さん、貴方とはとても気が会う気がするんです。

今の会社を辞めて俺と何か事業を起こしませんか」

俺は、今井の幸運を信じたから、

彼と事業を起こせば大成功はしなくても絶対に失敗はしないだろうと思ったのだ。

「五十嵐さん、私もねえそろそろ今の会社を辞めて何か始めたいと思っていたんですよ」

「ならばぜひ、俺と組んで下さい」

「ええ、良いですが、何か特技はありますか」

 そう問われて俺はつい「人を眠らせることです」と答えていた。

たぶん酔いがまわって判断力がだいぶん鈍っていたのだと思うが、

今井は私に都合よく解釈してくれた。

「そうですか、催眠術が出来るのですか。

実は私も”癒し”関係の仕事に興味がありまして、

催眠セラピストなんかも勉強した事が有るんですよ」

 なんと、人を眠らせる事が直接仕事になるとは考えてもみない事だった。

さすが幸運の男だと感心しながら、

話はその後とんとん拍子で進められ、

資金力の無かった俺は技術力を投資するという事で一応役員のひとりとなり、

今井が殆どの資金を出したので社長となって会社を設立した。

「幸運Ⅱ」-7

 昼過ぎに、今井の会社の近くの交差点で車の運転手を一人眠らせた。

今井に見立てた一人の歩行者に向って走ってくる車。

当然相手の近くに来ればブレーキを踏んで車を停止させる。

だが俺は運転手がブレーキを踏む前に眠りにつかせた。

 車はまっすぐに歩行者の方に突っ込んで行った。

幸いぶつかる手前で車は自動制御で停止した。

最近の車にはこんな機能まであるのかと感心させられるが、

事故が起こらなくて良かった。

 俺は、今井孝彦の運の良さを認めることにした。

俺に付けねらわれて一月ほどまったく無傷で過ごしたのだから、

認めないわけには行かない。

俺は今井孝彦にいよいよ興味を持った。

俺の人を眠らせる能力と、彼のかなりの運の良さが合わされば、

何か革命が起こせるような気がしたからだ。

 週末金曜日の夜、今井が仕事を終えて帰宅してくるのを待ち、

駅前の居酒屋に入る今井の後をつけて居酒屋の店内に入った。

 「今井さんお久しぶりです。五十嵐です。覚えていますか」

店内に居た今井を見つけるといかにも偶然を装って今井の側に近寄り、

週末で混雑している事を良い事にそのまま相席した。

「ああ、五十嵐さん、この間は失礼しました。

何か自慢話ばかりして迷惑だったんじゃないですか」

「いや、そんな事はありませんよ、楽しいお酒でした。

いやあ、またお会いできて嬉しいですよ」

「幸運Ⅱ」-6

 チャンスは訪れなかった。

大事な会議の日はあった。

しかし、そんな日に限って彼は座席に座らなかった。

別に座らなくても眠らせてしまえばよいのかもしれないが、

立ったまま突然眠って、そのまま立っていられるわけは無く、

当然その場に倒れる事になる。

周りの人は彼は眠っただけだから放っておけば良いとは思わないだろう。

何かの病気で倒れたと思い救護しようとするだろう。

遅刻しても病気で倒れたという言い訳が出来てしまう。

 次には少し乱暴だが、

眠らせる相手を今井ではなく

今井に向って走ってくる車の運転手にするという手段を考えた。

今井を眠らせようとすると失敗するのなら、

別の人間を眠らせるのならどうかと考えた。

 まったくチャンスは訪れなかった。

しかし、単純に俺の計略が問題あるのかもしれない。

 今朝、今井の利用する駅の階段で、

まったく無作為に一人の男を眠らせてみた。

三十代でわりと体格の良い男は、階段に一歩踏み出して眠りにつき、

そのまま階段を転げ落ちた。

幸い彼は格闘技の経験者だったのだろう、

眠ってもうまい具合に受身の態勢をとり、

体のあちこちを痛めたみたいだがそのまま立ち上がり、

何事も無かった体で歩き去った。

 階段で転がすというのは簡単に成功した。

次に誰かを電車内で眠らせてと考えたが、

これは出来て当たり前のこと、座席にさえ座っていれば問題ない。

今井の場合は肝心なときに座席に座ってくれないという事だ。

「幸運Ⅱ」-5

 結婚式が行われた施設への爆撃は中止になったし、

俺が仕事に失敗したおかげで結婚式は滞りなく行われた。

今井が言う運の強さに少し信憑性を感じたが、

ただの偶然だろうし彼が運が良い事の証明ではないだろうと考えて、

最初の罠を考えた。

 罠といってもたいした事ではない。

今井孝彦の後をつけて、

適当な場所で突然眠らせて事故に合わせるという単純な事だ。

だが、単純な事ほど実施は難しい。

 朝の通勤の駅で、階段を降りている途中で眠らせて、

階段から転げ落ちるように仕向ける事を考えた。

人が多すぎると直ぐに周りの人に助けられて上手く階段で転ばないだろう。

そう考えると人の少ないタイミングをねらいたい。

少なくとも彼の直ぐ前に体格の良い男が居ない時をねらおうと考えた。

 私の超能力では眠らせたい相手が目に見えている必要がある。

だから、俺自身も駅の近くで今井からあまり離れていない場所で陣取る必要がある。

 今井の周りに人が居なくなり、階段から降りるために一歩足を踏み出した。

ちょうど良いタイミングで眠らせようと意識を集中すると、

俺の後ろから人がぶつかって来て、俺が倒されそうになって失敗した。

 3日ねばって失敗したのであきらめて、

別のタイミングで別の罠にかけることにした。

次の方法は、電車内で眠らせて遅刻させるというものだ。

 普通の日に普通に遅刻してもたいした事ではない。

一度遅刻したぐらいで運が悪いと言うのもどうかと思う。

しかし、大事な会議のある日に遅刻したりすれば、それなりの大惨事だろう。

「幸運Ⅱ」-4

 一言ずつの言葉が会話の始まりとなり、

暫くすると完全にうちとけて、互いに自己紹介まで済ませた。

「まだ独身なんですか、私もですよ」と言う今井孝彦は、

ちっとももてないと言うが、男の俺の目から見るとそこそこのイイ男に思えるし、

仕事もきちんとした硬い会社のサラリーマンだから

恋人がいない理由がよく分からない。

「もてないというより単純に運が悪いからではないですか」

と言うと今井は少しむっとした顔で

「いやあ、私はこれでも結構運が良い方なんですよ」

と言い返してきた。

「まあ、運にも色々有るのでしょうが、私はかなり運が良いと信じてましてね、

たぶん恋人が出来ないのも必要ないからだと信じてますよ」

「はあ、そうですか。俺はあまり運が良い方ではなくて、

最近仕事も上手くいかなくてこれからどうしたものか悩んでいるんです」

俺はかなり弱気になっていたから、自信たっぷりな今井をうらやましく思い、

嫉妬したと思う。

 俺より先に来て飲んでいた今井は、

俺よりもかなり酔いが回っていたのだろう。

その後も運が良い事を自慢するような話をさんざん聞かせてくれた。

俺はかなり嫉妬したし、

鬱陶しいと思い何か、彼の運の悪さを示すような事をしてやろうと考えた。


 仕事が無くて暇をもてあましていた俺は、

今井孝彦の身辺調査から始めた。

 直ぐに去年妹が結婚し、

その結婚式が行われたのが俺が仕事でしくじった施設であり、

俺が眠らせるターゲットとしていたのが、今井達だった事を知った。
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