fc2ブログ

「広い家に住む為に」-5

 給料日の翌日に出社して、朝礼が終わり、

いまや数人となった事務所の人々が、各自の席に着き、

一息ついたタイミングで工場長の席に行き頭を下げた。

「すみません、工場長。ぼく会社を辞めます」

 工場長は暫く私の顔を眺めて、

姿勢を正す為に椅子に座りなおし、前かがみで話し始めた。

「この会社を辞めるという事ですか」

「はい」短く返事を返す。

「そうですか、仕方がないですね。

まだ若いからいくらでも就職先はあるんでしょうね。

それじゃあ、退職の手続きが必要だから、

後で書類を用意するから、自分の席で待っていてくれ」

 そう言うと工場長はもう用事は済んだという顔で、

机の上の書類入れから何かの書類を引っ張り出して読み始めた。

「あの、今までお世話になりました」

そう言って頭を下げて立ち去ろうとすると、

「まだ挨拶は早いよ。

非常識だねまだ手続きが終わっていないんだから、退社日も決まってないよ」

と鼻で笑うような言い方をされてしまう。

 工場長は、

私が明日以降もまだこの会社に姿を表す可能性があると思ったのだろうか。

私は二度とこの会社に来るつもりはなく、今日が最後の出社だと思っていた。

「いえ、工場長、私はもうこれで退社して、二度と来ないつもりです」

「何馬鹿な事を言ってるんだ、社会人ならもう少し常識を持たなくちゃ駄目だよ。

君と我が社との雇用契約はまだ有効なのだから、

君の側で一方的に解約する事は出来ないのだよ。

わかるかね、君が来たくないと言ったって、

まだ会社側には君に出社させる権利があるんだ。

とにかく書類を用意するから、君がその書類に目を通して、

全てきちんと手続きし終わるまで、会社には来てもらわなくちゃあ困る。良いね」
フリーエリア
カレンダー
02 | 2011/03 | 04
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
リンク
最新記事
カテゴリ
最新コメント
検索フォーム
QRコード
QRコード