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「広い家に住む為に」-7

「よし、書類は全て整った。もう明日から来なくて良いからね」

 最後に軽く微笑んでそう言われ、私は事務所を後にした。

社内には多少仲の良い人達も居たけれど、

すでに田舎の工場へ転勤した者が多くて、

残っている者で送別会をやろうという話になるはずもなく、

寂しく職場を去ることになった。

 職場を去ると同時に社員寮からも追い出されるのだが、

新居が見つかるまで暫らくは居て良いと言われると思っていたのに、

一週間以内に出て行かなければ強制退去させると言われた。

社員に冷たい会社だと思っていたが、

社員でなくなった者にはさらに徹底的に冷たかった。

そして、世の中の厳しさを知ったのはその直ぐ後だった。

 会社を退職し定職に着いてないとなると、

まず誰も住居を貸してくれない。

そして、住所不定だと誰も雇ってくれない。

何処かの誰かを頼り保証人になってもらわなければ、何一つ出来ない。

仕方なく嫌っていた親を頼り、

親の住所を現住所として履歴書を作り、新しい仕事を探し始めた。

 幸運にもこの時はまだ景気も良かったから、

零細企業で町工場だけれども就職する事が出来た。

就職が決まると住居も決まり、小さなアパートだけど自分で借りて住み始めた。

 寮生活から自分で借りた小さいながらもアパート暮らしを始めると、

やっと独立したような気分にもなった。

 人間一度手に入れたものはなかなか手放せないし、

一度覚えた贅沢もなかなか止められないものだ。

しかし、借金だけはしたくなかった私は、

何とか自分の給料の中で生活する習慣を身につけて、

以前の真面目だった頃の生活に戻っていった。
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