fc2ブログ

「永田町」-35

 どうやら通常の物理的な破壊行動で、人類を滅亡させるのではなく、

人間の心の中をおかしくして、滅亡させようとしているのでは無いだろうか。

すでに、何か事故があっても怪我人を助けるという考えがなくなっている。

 もっと進めば、

何かもっと大切な人としての行動が取れなくなってしまうのかもしれない。

それこそ、皆で殺し合いでも始めてしまうのかもしれない。

 魔王の周辺は吹き飛ばされて廃墟と化しているから、

公共交通機関ではすぐ近くまで行く事が出来ない。

廃墟となっているのは魔王の周囲半径一キロ程度だから、

距離としては歩いていける距離だが、廃墟と化しているという事は、

道路もいたるところで瓦礫に埋もれたり、陥没したりで、歩ける場所を探しながら、

かなりくねくねと彷徨いながら進む事になる。


 魔王の姿を直接目にしたとき、その暗さにため息が出た。

 恐怖心とか不安とかは感じなかった。

ただ、何か緊張感は有った。

薄気味悪さもある。

 身長十数メートル、四階建てのビルくらいの背丈だ。

遠くからではそれ程の威圧感は無い。

テレビのヒーロー物で、でかすぎる怪獣を見慣れてしまったせいだろうか、

テレビの中では大きなビルよりはるかにでかい怪物が大暴れしているから、

それと比較すると確かに小さく感じる。

それに、周りのビルの残骸がでかいから、

そんな残骸にうずもれるようにしているから、それ程大きいとは感じないのだろう。

 怪獣では無く魔王だから、大きさは強さと関係ないのだろうかと考える。

だが、周囲に漂う薄暗さが薄気味悪さを醸し出している。

 魔王にかなり接近したところで、魔王と目が合った。

さすがに近くで見るとでかいし、その大きさだけでも十分に迫力がある。

 暫らくにらみ合いの状態になる。

「永田町」-34

 こんな異常な状況の中なのに、バスや鉄道は殆んどが通常通りに運行している。

もちろん魔王が降臨して廃墟と化した永田町を通る路線は運休している。

ただ、その表示も事故の為運休とし、

振り替え輸送とか事故現場までの折返し運転とかと表示されていて、

魔王が居て危険だといった情報はまったく表示されていない。

そして、魔王を無視するかのように破壊された路線の復旧作業がすでに始められていた。

 普通まず魔王を除去してから取り掛かるべきだろうと思うのだが、

魔王はただの新しく出来た山程度にしか捉えられていないようだ。

 自衛隊も先週の攻撃が役に立たなくて、打つ手が無いと分かると、

ものすごくすんなりとあきらめて退却していた。

まるで皆魔王の存在を無視し始めているかのようだった。

 小学校に到着して、塀の外から校庭を少し覗き見するだけで十分だった。

その場所が間違いなくヘリが墜落した現場だと分かるくらい、

手付かずのままで放置されていた。

 ヘリの焼け焦げた残骸と、子供達の沢山の死体。

僕は一目覗き見しただけで、悪臭とあいまって気分が悪くなり、

直ぐにその場を離れた。

そして、自分の目で直に魔王を見てやろうと考えた。

 なぜそんな無謀な事を考えたのか分からない。

僕も魔王の毒気にやられて、魔王の存在への恐怖とか、

そんなものが薄れていたのかもしれない。


 魔王の居る場所へと向いながら、魔王について少し情報を整理してみた。

 魔王は、降臨した日に墜落させたヘリの乗員に、

人類を滅亡させると言っている。

だが、具体的な攻撃は、

自分が降臨する時に吹き飛ばした永田町とヘリや飛行機を墜落させた事だけで、

自衛隊の攻撃に対して、ミサイルをあらぬ方向か僕を狙ってか、

方向を変えてマンションの展望室を爆破したように、

こちらから手を下さなければ、何もしていない様に思える。

「永田町」-33

 問い合わせが殺到すればそれなりに騒ぎになるだろうから、

興味を失った魔王近隣の人達だっておかしいと思い始めるだろう。

それが一切騒ぎにならない、少なくともテレビでは報道されないという事は、

魔王の周辺だけの変化ではなく、

世界中の人達が人の生死に興味を持たなくなった可能性がある。

だが、魔王の何かの力によって世界規模で人間の精神とかがおかしくなっているのなら、

田辺はなぜ正常なのだろう。

 かぜで寝込んでいたからだろうか。

「山田、俺、帰って寝るは、それじゃあな」

 校門を出たところで、田辺はぽつりと言ってさっさと僕に背を向けて歩き去った。

 僕は、田辺の背中を暫らく眺めていたが、

呼び止めても何も出来ないと思いそのまま見送った。

そして、ヘリが墜落した小学校はどんな様子だろうかと興味がわいてきた。

 怖いもの見たさと言うヤツだろう、単に好奇心と言う事だし、

野次馬根性と言うものかもしれない。

大学が休校だから暇なのも有った。

小学校の場所も大体分かっているというのもある。

そして、大勢の子供が犠牲になる瞬間がテレビ画面に映し出されたのだから、

当然事故現場には直ぐに大勢の人が駆けつけただろう。

本来ならば。

 魔王の毒気のようなものでおかしくなっているのが本当ならば、

小学校の校庭には死体が転がったままになんている可能性がある。

しかし、いくら何でも子供の親達が直ぐに駆けつけて遺体を引き取るだろう。

だから、きっと綺麗に片付けられて手向けの花が供えられているはずだ。

もし、小学校も死体が転がっている状態だったなら、

いよいよ人類は滅亡するしかないくらい、

おかしくなってしまったと考えるべきだろう。

「永田町」-32

 校舎の中はただの火事場の異臭とは違い、

もっと嫌な腐敗臭とか死臭とかが漂っている。

息を止めたまま数歩進んで僕は引き返した。

先に入った田辺は暫らく校舎の中を見て回った後、

なんとも言えない顔をして外に出てきた。

「何で遺体をそのままにしてるんだ」とまるで僕に責任があるかのように、

僕の顔を睨みつけて田辺は言った。

「どうして、ほったらかしにしてるんだ」

「だから言ってるだろ、誰も死んだ人に興味が無いみたいなんだ。俺とお前以外」

と田辺から目をそむけながらつぶやく。

 実の所僕自身もあまり興味は無かった。

その事を自分でも不思議に思うが、僕以上に他の人達は興味を示さなくなっている。

自分の友人知人だけでなく家族をなくした人もいるはずなのに、

誰も身内の死を悲しんでいる様子が無い。

 田辺も校舎の中から漂う異臭に耐えられなくなったようで、

「こんなに焼け焦げてちゃ親友だって見分けられないな、

俺たちだけじゃどうにもならないし」

と悲しそうにつぶやきながら、校門へと向かって歩き始めた。

「とりあえず、安否が知りたければ電話してみたらどうだ、

とりあえず近藤と鈴木は無事みたいだけど」と言ってみた。

田辺は頷くが、電話を取り出そうとはしなかった。

 そんな田辺の事より僕は、自分自身の気持ちを不思議に思い始めた。

なぜ自分では友人の安否の確認をしようとしないのだろう。

他の人達もそうだが、まるで魔王の毒気に当てられたように、

考え方がおかしくなっている。

しかも、魔王の近くの人間だけではないはずだ。

遠い場所にいる人達でも東京に友人知人がいる人も多いだろうから、

死傷者に関する情報が無ければ、いろいろなところへ問い合わせるだろう。

「永田町」-31

 田辺はまだ全体の様子を把握できていないのだから仕方が無い、

仲間がどうのと言うレベルでは無いのにと思いながら、

僕も仲間の方が気になり始めた。

「いつものメンバーは無事だけど他は分からないよ、

誰も死傷者に興味が無いって感じだから、一切報道もされてないし。

今、ふと思ったんだけど、死傷者はまだ校舎の中に残されてるかもしれない。

だって誰も事故現場から救出しようとしてないみたいだから」

「なんだよ、じゃあ校舎の中に死体がゴロゴロしてるってのかよ」

 僕は頷いて校舎の方へ振り向いた。

そして、ゆっくりと無言のまま校舎内へと向う。

直ぐ横を僕に沿うように田辺が歩く。

 校舎に近づくにつれて、火事場の異様な臭気が強くなる。

ただ焦げ臭いのではなく、

さまざまな化学物質が放つ有毒ガスの混ざった吐き気を誘う臭い。

 校舎の周りには、飛行機の残骸らしきものが散らばっている。

大木の燃え残りが黒く茶色く薄気味悪さを醸し出す。

焼け落ちて大きく口を開けた窓からでも人の死体が見えた。

 生身の人間はそれ程燃えやすいものではないから

もう少し姿形が残っているかと思ったのに、

真っ黒い墨の固まりのようになっていた。

それでも全体の形と大きさから人間で有っただろう事が想像できた。

 この中に絶対に見たくないものがあるかもしれないと思い、足を止める。

 校舎の入り口で僕が中に入るのをためらっていると、

田辺は慎重にではあるが中へと足を進めた。

仕方なくその後に着いて僕も中へと進む。

もしトモちゃんの死体を発見してしまったら、

全ての希望を失ったような気になるかもしれない。

入ったもののまともに見て回る事が出来なかった。
フリーエリア
カレンダー
07 | 2011/08 | 09
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
リンク
最新記事
カテゴリ
最新コメント
検索フォーム
QRコード
QRコード