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「永田町」-32

 校舎の中はただの火事場の異臭とは違い、

もっと嫌な腐敗臭とか死臭とかが漂っている。

息を止めたまま数歩進んで僕は引き返した。

先に入った田辺は暫らく校舎の中を見て回った後、

なんとも言えない顔をして外に出てきた。

「何で遺体をそのままにしてるんだ」とまるで僕に責任があるかのように、

僕の顔を睨みつけて田辺は言った。

「どうして、ほったらかしにしてるんだ」

「だから言ってるだろ、誰も死んだ人に興味が無いみたいなんだ。俺とお前以外」

と田辺から目をそむけながらつぶやく。

 実の所僕自身もあまり興味は無かった。

その事を自分でも不思議に思うが、僕以上に他の人達は興味を示さなくなっている。

自分の友人知人だけでなく家族をなくした人もいるはずなのに、

誰も身内の死を悲しんでいる様子が無い。

 田辺も校舎の中から漂う異臭に耐えられなくなったようで、

「こんなに焼け焦げてちゃ親友だって見分けられないな、

俺たちだけじゃどうにもならないし」

と悲しそうにつぶやきながら、校門へと向かって歩き始めた。

「とりあえず、安否が知りたければ電話してみたらどうだ、

とりあえず近藤と鈴木は無事みたいだけど」と言ってみた。

田辺は頷くが、電話を取り出そうとはしなかった。

 そんな田辺の事より僕は、自分自身の気持ちを不思議に思い始めた。

なぜ自分では友人の安否の確認をしようとしないのだろう。

他の人達もそうだが、まるで魔王の毒気に当てられたように、

考え方がおかしくなっている。

しかも、魔王の近くの人間だけではないはずだ。

遠い場所にいる人達でも東京に友人知人がいる人も多いだろうから、

死傷者に関する情報が無ければ、いろいろなところへ問い合わせるだろう。
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