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ちょっと物語-6-③

「死刑になりたかった人」-③

逮捕されたT氏41歳は、警察官から死体が3つもあった事を知らされて、愕然とした。

殺されたのは農家の62歳の祖母と65歳の祖父と6歳の孫娘の3人で、

T氏は帰宅してきた母にぶつかってしまい、悲鳴で駆けつけた近所の人達に囲まれて

しまったのだった。

3人も殺した強盗殺人であれば、もうどんなに頑張っても、死刑は確定だろう。

あの状況で正当防衛なんてありえないから、自分が犯人と言う事になれば、

どうにも死刑は逃れられないだろう。

警察は、完全にT氏41歳を犯人と考えて、疑いを持っていない様子だ。

素直に犯行を認めれば、楽に死刑にしてくれるだろうか、

それこそ自分の望んでいたことのはずだ。

しかし、いざとなると恐ろしくて仕方ない。それに、真犯人が逃げおおせてしまうのも、

何だか腹が立つ。

「何故あの農家に侵入したんだ」警察官は質問を始めた。

「お前があの家に入ってからの行動を一通り、正直に話してみろ」

T氏41歳は、まずは正直に話してみる事にした、それで殺人犯にされても、

もう運命とあきらめた方がいいだろう、何しろ運の悪い人間なのだから。

「なかなか仕事が見つからなくて、金も底を付いて、とにかく金が必要で、

空き巣でもするしかないと思いまして、たまたまあの家を見つけて、人の気配が無くて、

でも玄関の引き戸が少し開いていたので、つい中に入りました。」

「それから」

「玄関の隙間から中をのぞいても、人の気配がしないので、思い切って引き戸を

開けて中に入ってみました。そしたら、中で人が血まみれで倒れていて」

T氏41歳は全て正直に話した。警察官は一通り話を聞いてからいろいろと質問を

しながら、最初から繰り返し説明させた。

T氏41歳は繰り返しの説明に飽き飽きしながらも、我慢して繰り返し同じ説明を続けた。

結局T氏41歳は窃盗犯として逮捕され、初犯で反省しているとみなされて

起訴猶予処分となり、数日で釈放されてしまった。

殺人犯は父親で、犯行後逃走を考えたが、自分がいなくなれば犯人としてすぐに

追われることになり、逃げ切れないと考えなおして自首していたのだった。

T氏41歳は結局死刑になる事は出来なかったし、アメリカに行く事も出来なくなってしまった。

途方にくれて、もう餓死でもするしかないかと、弱り果てていた。

ところが、運の悪いはずの自分がだめもとで買っていたロトシックスが高額当籤していた。

エリートサラリーマンの生涯年収以上の額を受け取る事になった。


結局、T氏は人より多く持っていると思っていた罪悪感は少なくて、

無いと思っていた運はとても強かったのだ。

なにしろ、半年間の不摂生と宝くじ当選の驚きと興奮で、

望み通りあの世に行けたのだから。

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