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落ちのない物語-13-前半

「紅茶を美味しく飲むために」-前半

喫茶店だというのに、コーヒーのにおいが充満しているから腹が立つ。

取引先に訪問する前に、事前の打ち合わせの為に、営業担当と落ち着いた雰囲気の

喫茶店に立ち寄った。

営業担当者2人がブレンドを頼み、自分だけ紅茶を頼んだのだが、

店員が注文した品を持ってきたときに、コーヒーのにおいしかしなかったので、

紅茶ではないと思いこんでいた。

「紅茶をお持ちしました」という店員の言葉にも気付かずにいて、

向かいに座る営業担当の、T課長が私を指し示して、店員が紅茶を私の目の前に置いても、

まだ俺が注文したのは紅茶で、コーヒーではないぞ、と思っていた。

何だ、と思い「私は紅茶ですよ」と言いかけながら、紅茶に顔を近づけてやっと、

それが紅茶と気付いた。

たぶん、紅茶だと気付くまでの数秒間、俺の態度をみんな妙に思っただろう。

誰も口にはしないけれど、何だか恥をかいた気分になった。

喫茶店と名前に、「茶」を「喫」する店とあるのに。

「喫」は飲み食いする事だから、「茶」を飲む店のはずなのに、

茶や紅茶よりにおいのきついコーヒーをメインにしている店ばかりだ。

今日の仕事は、商品開発担当として、営業のT課長とF主任に同行して、

取引先に新商品を説明し、意見を聞きに行くものだった。

事前の打ち合わせは、工場側で準備した資料を営業の2人に事前に見せておく為だ。

俺が資料を2人に渡し、紅茶に砂糖とミルクをたっぷり入れてかき回し、

一口飲んだところで、F主任が言った。

「コーヒーは嫌いですか、喫茶店の紅茶は薄くてあまり美味しくないでしょ」

「コーヒーはちょっと苦手なので」

暫らく資料に目を通した後で、F主任は続けた。

「僕も、コーヒーより紅茶が好きなんですが、喫茶店の紅茶よりはコーヒーが好きで、

でも家では紅茶かと言うと、美味しい紅茶をいれるのは手間なんで、いつも缶コーヒーなんです。」

彼は、どれほど紅茶を美味しくいれられるのだろう。

「私も、紅茶が好きで休日に家でくつろぐときには、手間を掛けて紅茶をいれてますが、

元の水が美味しくないとダメですね、ミネラルウォーターは紅茶には合わないし、

自宅の水道水はカルキ臭くって、だから、めったに入らない喫茶店に、期待するのですよ。」

「はぁ、水ですか、あまり気にしたこと無いですね」

やはり彼はさほど美味しい紅茶を飲んでいるわけではなさそうだ、紅茶のほのかな香りは、

水の僅かなにおいで台無しになってしまう、水にこだわらないでどうする。

「このあたりの水道水は、美味しいのですか」

「さぁ、うちは井戸水なので水道水は良く分からないですが、

評判がいい話は聞いた事無いですね」

なんだ、彼はもともと水に恵まれているから、こだわりを持つ必要さえなかったのか。

「茶葉には何かこだわってますか」

「やはり、ダージリンで」

「そろそろ行こうか」資料を見終わったT課長は言って、伝票を持って立ち上がった。

話を中断し、二人も立ち上がった。

「Y課長、紅茶が好きならぜひ、本社の近くの喫茶ドミノに行くといいですよ、

紅茶専門だから、コーヒーの香りに邪魔されなくて済む」T課長は店を出たところで言った、

どうも、店員に気を使っていたようだ。

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