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「強盗なの」-2

入り口のドアから、ちりんちりんと風鈴のなる音がする。

ドアのそばに、江戸風鈴がぶら下げられていて、

ドアが開閉する時に起こる風を受けて、

ちりんちりんと軽い澄んだ音が鳴り、来客を知らせる。

店員が振り向いて、入り口を見る。

私も何となくつられて半分振り返り、

お客の姿をじろじろと見るのは、失礼な事と思い返して、

途中まで捻じ曲げた腰と首を直ぐに元に戻す。

それでも入ってきた人間の姿は確認できた。

若い男だが、あまりお客と思えない雰囲気がある。

お客ならば直ぐに座る場所を考えて、店内を見回すだろうし、店員の指示を伺うだろう。

でも、入ってきた若い男は、入ってきた入り口付近で立ち止まり、

まるでそれ以上入るには値し無い人間だと主張しているように感じる。

つまり、何かの集金に来た人間の雰囲気だ。

ちらりと振り向きかけて、ほんの少し見ただけで、そこまでを感じ取った。

店員が何かに怯えている。

なぜだろう、振り向きたいけれど、何か危険を感じて振り向けない。

じっと、店員の動きに目がうばわれる。

店員は、入り口の方を向いて、ゆっくりとした動きで、私から見て右の方、

カウンターへの出入り口があり、店の出入り口がある方へと、近づいて行く。

近づきながら、手を上にゆっくりと上げ、肩の高さの少し上で留める。

銃か何かで脅されて、手を上げている様にも、

侵入者からの攻撃に備えている様にも見える。

店員が突然手を叩き、嬉しそうに微笑み、

「あっ、例のあれですね、大丈夫用意していますから」と入り口の男に声をかけた。

「はい、そうです、例のヤツです」入り口の若い男も、嬉しそうに返す。

一瞬強盗か何かかと思った自分が、恥ずかしく感じる。

入り口の男と、店員がそれぞれカウンターの出入り口のある右端に歩いて行き、

2人だけに聞こえる声で、何か話し合いを始める。

私は、無関係なただのお客として、食事に集中しようとしながらも、

右の方の2人の動きが気になって仕方が無かった。

暫らくすると、レジが開かれて、

店員がその中からお金をごっそりと取り出し、若い男に渡した。

若い男は、その金を自分のカバンに無造作に放り込み、

ゆっくりと後ずさりしながら、入り口のドアに向う。

私はとにかくただのお客の立場を維持するように、

目の端で男と店員の動きを捉えていながらも、

食事に集中しているふりを続けていた。

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