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「強盗なの」-3

食事に集中するふりをしている以上、

男の容姿や立ち居振る舞いの細かな所は、見えていなかった。

男は入り口まで到達すると、一気にドアを開けて出て行った。

ちりんちりんと風鈴の音が激しく鳴り、やがて静かになる。

店員が入り口に向って突然突進して、ガラスのドアの中から外の様子を伺う。

私も今度は一気に入り口の方を振り向き、店員と外の人の動きに目を向けた。

店員が私の方をみて、睨みつけてから、カウンターの中に入り、

レジ横の電話機を手に取りどこかに電話する。

「もしもし、強盗です。はい、○○町の喫茶×○です。

はい、犯人はもう逃げました。はい、お願いします」

強盗・・・だって知り合いみたいに話をしていたじゃないか、どういう意味だろう。

もし、本当に強盗ならば、ゆっくりと食事をしている私は馬鹿みたいじゃないか。

「あの、今の男が、強盗だったんですか」

「えっ、何いってるんですか、レジのお金を盗って、出て行くのを見なかったんですか、

貴方、目が見えないんですか」

「いや、一応見えますが、でも、知り合いの人だと思ってましたが」

「知り合い、何言ってるの、強盗の知り合いなんかいないわよ」

「でも、最初に例のあれとかって話してたじゃないですか」

「例の・・あれ、ああ、そうか、もうすぐ町内会の祭りなんで、

祭りの寄付金集めが来るから、その集金のことできたのだと思って、

でも、その後のやりとりとか見ていれば、分かるでしょう」

「はあ、済みません、なるべく見ないようにしていたので、気付きませんでした」

そんなやりとりで、朝食は食べづらく、

そのままコーヒーと水だけをちびちびと飲んでいると、

白バイが表に到着し、警官が周囲を警戒する。

暫らくすると、パトカーも数台到着し、警官数名が店内に入ってきた。

店員に事情聴取し、さらに私も別の警官から、いろいろと質問される。

住所氏名年齢職業、店との関係とか、

しかし、肝心要の犯人の人相特徴が答えられない。

そして、強盗とは思わなかったという変な証言をしてしまい、

印象を悪くしたような気がする。

ただ、店員が私を常連客と言ってくれたからなのか、

あっけなく開放されて、少し寂しい気分になる。

強盗事件の現場に立ち会うことなどめったに無い事だから、

仕事仲間にも自慢できるネタになるはずなのだけれど、

目撃証人として役立たずでは、話しただけ恥ずかしい。

願うのは、店員が変な証言をメディアの記者にしないでいてくれる事だけだ。

目の前で強盗事件がありながら、

気付かなかった間抜けな客が居たなどと知られたくは無い。

-END-


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