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「羨ましい」-3

それでも今日のように、たまにイラついてしまう事はある。

ただイラついてしまうのと、

彼が他の人と上手く人付き合い出来ているのかが心配になるだけだ。

やっと焼香が終わり、手伝ってくれていた父の会社の人達に挨拶を済ませると、

葬儀場の控え室のようなところに、遺族をはじめ親族が集まって、

父の思い出話を語り始めた。

彼は親族では無いけれど、もう身内に近い存在だから、

一応私を支える為という名目もあって、一緒に居た。

食事も用意していたので、

悲しみと緊張であまり食事の取れていなかった母に無理やり食事を勧めたり、

自分も少しは食べておこうと、無理に食べてみたり。

時々親戚が語る父の思い出に、母は涙し、私はそんな事も有ったのかと感心したり、

驚いてみたりしているうちに、夜も更けてそろそろ泊り込まない親戚は帰宅するか、

近くに用意したホテルに向う事になった。

皆はそろそろお暇しますと挨拶を交し合い、

帰る前に今一度父の姿を見ようと、葬儀場に向った。

私たち遺族も立会う為に葬儀場に向かい、彼と一緒に父のそばに立った。

ふと、彼が父の方を見て皆にも聞こえる声で「羨ましい」と言った。

私は、彼の悪い癖が出たといたたまれない気持ちになり、

死んだ人が羨ましいなら死んでしまえなどと心の中で毒づきながら、

それでも冷静を装って聞いた。

「亡くなった父がどうして羨ましいの」

彼は、静かに答えた。

「沢山の人から惜しまれて、沢山の思い出が語られるのは、

人から慕われる立派な人だったからでしょう」

そばにいた母が、彼の手を握り締めて「ありがとう」と言った。

人を羨ましく思うのは、相手の良い所をみているから。

彼の考えを、少し理解できた気がした。

‐END‐

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