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「ハッピー・バースデー」-5

老人はすでに息をしていなかった。

老人の100歳の誕生日は、

命日にもなってしまった。

部屋の隅で斜に構えていた男に付き添われ、

病室から出て行く老人。

「さすが死神じゃな、わしの思いがちゃんと分かるとは」

「ええ、死神ですから分かります。

天寿をまっとう出来ずに迎える死は悲しいものかもしれませんが、

天寿を全うしたあなたの死はおめでたいものです。

死が悲しいだけのものであるならば、

人の生の意味まで否定されてしまいますからね」

「そうじゃな、若い連中にはまだまだ理解できんだろうな」

死神が老人を空高く舞い上げる。

老人は天空に吸い込まれるように薄くなり消え去っていく。

「新しく生まれる命のために消え去る事が、

生きとし生けるものの最後の仕事」

そう言うと死神も本来のもやのようなものに戻り、

後には何も残らなかった。

死神の姿は老人が作り出したものだから、

老人が消えるともう形をとどめる事は出来なかったのだ。

病室ではみなが老人の死に涙している。

みんな最後まで老人が何を言いたかったのか分からなかったから、

ただただ悲しむ事にした。

誰かが言った、

「最後にあんな嫌味を言ったのは、

我々の悲しみを少しでも減らそうとしてくれたのかもしれない。

少し嫌われる事で」

みんな余計に多く涙する。

‐END‐

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