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「散歩の神様Ⅶ」-10

「ちと、頼まれてくれんか」と初老の男が声をかけてくる。

「何でしょうか」

「たいした事ではないのだが、その」

「何でしょうか」

「うん、素直になってくれないか」

「はっ。どういう意味ですか」

「うん、自分の気持ちに素直になって、自分も幸せになることを考えてくれないか」

「あの、失礼ですが、誰かとお間違いじゃないですか。私は貴方と初対面ですよ」

「いやいや、そういう問題ではない。

男はプライドと言うのか、意地と言うのか、

そんなものが有ってなかなか素直に別れると言えんのだろうが、

いっそきっぱりと別れた方が気分が良いと思うぞ」

「おい、誰が誰と別れるって、何を言ってるんだよ」

「素直になりなさい。素直に。はははは」とかすかな笑い声を余韻に残し、

初老の男は姿を消した。

 姿が薄くなり背景にぼやけて見えなくなるのを目の当たりにして俺は、

素直になろうと決心した。

そのまま家に帰ると同棲中の家の荷物を取りまとめ、

自分の実家にさっさと荷物を送り、

翌日には家を出て行った。

 自分なりの意地で、彼女には一切連絡を取ることなく出て行って、

多少なりとも心配させる事が精一杯の仕返しだった。

     ★

 二ヵ月後私は都会での仕事を退職し、

再び実家に向う電車の中にいた。

娘は何となく嬉しそうだ。

私が退職した事を連絡すると、

母はものすごく嬉しそうにいつ実家に帰ってくるのと聞いてきた。

父が私に自分の仕事の後を継いで欲しいと言い出したのにもまいった。

 父の様に朝から晩まで働くなんてごめんだと言うと、

お前ならもっと要領よくやれるから心配ないと言う。

結局両親は孫が近くに居ればそれで良いのだろうけれど、

ついでに私も歓迎しているようなので、とりあえずホッとした。

-END-

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No title

あはようございます。

やはり「素直」というものは大切なんですね・・・。
この「素直」のお陰で、物語が良い方向へ進んだというわけですね。。

少し、勉強になりました。。
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